【櫃石島】路線バスでしか入れない瀬戸大橋直下の島を歩く

日本にはたくさんの、そしていろんな島があります。
そのひとつひとつの個性をじっくりと見ていくと、まるで人間みたいだと思うときがあります。
そんな島々のうち、今回ご紹介するのはちょっと珍しい「路線バスでしか行けない島」です。

飛行機でも、船でも行けない。でも唯一路線バスでなら行くことができる。
どうですか?少し興味が湧いてきませんか?
実は路線バスでしか行けないという島はいくつかあるのですが、私が訪れたのは「櫃石島」という島。
ひついしじま、と読みます。

大学の学位論文で櫃石島を含む塩飽(しわく)諸島をテーマにしたこともあり、このあたりの島々には勝手に親近感を抱いています。
でも、恥ずかしながら櫃石島への上陸は今回が初。
行くことが決まってからずっとわくわくしていました。

採石から瀬戸大橋の島へ

上陸レポートに入る前に、少しだけ櫃石島のご説明をしたいと思います。

櫃石島をはじめとした塩飽の島々は古くは海運業、近代は採石業で栄えました。
しかし1988年、その島々にとって大きな転機が訪れます。
瀬戸大橋の開通です。

特に瀬戸大橋のすぐ下に位置し、高速道路上からアクセスできるようになった島々は「橋ができることで観光客がたくさん来るようになる!」と大いに期待されるようになります。
そして、ホテルや娯楽施設の建設ラッシュが始まります。

もうお分かりかもしれませんが、今現在、瀬戸内の島々にリゾート旅行に行く人はほとんど見かけません。
瀬戸大橋の通行料が高かった(普通車で5000円オーバーだった)ことに加えてバブルの崩壊が襲いかかり、瀬戸大橋周辺への関心は次第に薄まっていきました。
リゾート計画は短期的な成功こそ収めましたが、経営を続けていくのは難しい状況になってしまったのです。

その後さらに過疎化や少子高齢化のあおりをうけ、塩飽諸島の人口は減少の一途を辿っていきます。

そんな厳しい状況にある櫃石島ですが、島にはたくさんの見どころがあります。
今回は採石でもリゾートでもない、櫃石島の魅力をご紹介します。

アクセス

櫃石島へは、瀬戸大橋を経由することで自動車で行くことができます。
ただし、自家用車で上陸できるのは櫃石島の島民のみ。
島の入り口にはゲートがあるので、一般車は島の道路にすら入ることができないようになっています。
そのため、島外の人は櫃石島行きの路線バスに乗るしかないのです。

そのアクセスの悪さからなのか、観光客はかなり少なめ。
今回の滞在でもほとんど観光客を見かけることはありませんでした。
瀬戸内ののんびりとした空気を楽しみたい方にはぜひおすすめしたい島です。
温暖な気候と島に暮らす方々のあたたかさに包まれた、幸せなひとときを過ごすことができます。

経営不振のため下津井電鉄(下電バス)は2021年3月末にバス路線から撤退してしまいましたが、4月以降は琴参バスがその路線を引き継いでいます。本数は1日5本。
本州側の児島駅前、四国側の坂出駅前どちらからもバス1本で櫃石島へ行くことができるようになったので、実は廃止後のほうがアクセスは良くなりました。
琴参バス公式サイト(「瀬戸大橋線」がこの路線です)

これは廃止になってしまった下電バス。与島から岩黒島・櫃石島を経由して児島駅に抜けるルートでした。
(ちょっと色味が独特なフィルムで撮影したのでコントラスト強めになってしまいました…)

路線バスで瀬戸大橋を渡っていざ櫃石島へ

私たちは下電バスが廃止する前に四国側からこの島を訪れたので、坂出駅→与島→櫃石島のルートでバスを乗り継ぎました。乗客はほとんどいませんでした。

瀬戸大橋を渡るバスの車窓からは、瀬戸内海に浮かぶ島々を一望することができます。

瀬戸大橋は高速道路なので、普通の路線バスに乗って渡るとなんだか不思議な感覚です。
高速道路でもバスの性能上そこまでスピードは出せないので、少しドキドキしてしまいます。
でも、これはこれでなかなか経験することができないので面白いものです。

乗り換え時間を含めてもおよそ1時間足らずの旅。
途中与島に寄ることもできたのでちょっと得した気分のまま、櫃石島に到着です。

出迎えてくれたのは…

櫃石島にはいくつかバス停がありますが、とりあえず島名そのままの「櫃石」で下車します。
「櫃石」のバス停はベンチや屋根があり、バスを待つための環境は良好。
近くにはトイレもありました。

バス停からはそびえ立つ瀬戸大橋が見えます。

バスを降りた私たちを出迎えてくれたのは、かわいいネコちゃん。
かなり人馴れしている様子で、私たちにべったりとくっついて離れません。
私たちが歩けばそれに合わせて後ろからついてくるほど。
よく見たら首輪をつけていました。近くの家の飼い猫なのでしょう。

目の前でくつろぎ始めるネコちゃん。

ずっと一緒に遊んでいたいのはやまやまですが、帰りのバスの時間があるので島を巡らなければなりません。
泣く泣くネコちゃんとはここでお別れをします。

気さくなおじいちゃん、どうやら大漁みたい。

港に小さな船がつきます。
ぼうっとその様子を眺めていると、その船から降りてきたおじいちゃんが、気さくな笑顔を浮かべながら私たちの元に向かってきました。

「みてみて、大漁」

どうやらさっきまで漁に出ていたようです。
両手で抱えるクーラーボックスは重そうです。
そして、どさっとその白い発泡スチロールの箱を置くと、おもむろに獲れた魚を広げます。
「これがスズキで、これが…」と説明してくれましたが耳馴染みのない魚が多く、恥ずかしながら忘れてしまいました。…いつかちゃんと覚えます。

それにしても、この島のネコちゃんもおじいちゃんもすごく親しみやすいというか、人懐っこいというか。
上陸後10分で、櫃石の居心地の良さに包まれてしまいました。

たくさんのお魚が獲れたみたいでした。一番大きいものは、久々に帰ってくる親戚のためにキープしておくらしいです。

ワカメってこうやって干すんだ…。

集落を歩いていると面白いものを見つけました。
民家から長い竿のようなものが出ており、なにやらそこに滑車が取り付けられているようです。
なんだろうと見ていると、下の方からひらひらと緑色の布のようなものが上ってきます。
よーくみると、それはワカメでした。どうやらワカメを干すために作られた専用の仕掛けのようです。
他の家でも、ちらほらこの光景を見かけました。
北海道で海岸に昆布を並べて干す様子は見たことがありましたが、この島ではワカメをこうやって干すんですね。

島名のルーツの巨石「櫃岩」

櫃石島の南側には、島名のルーツになった「櫃岩(ひついわ)」という岩があります。
ただこの岩、ちょっとした山の中にあるんだとか。
靴紐を結びなおして覚悟を決め、看板が指す方向へと歩きます。

…たしかに険しい道のりでした。

木に結びつけられたロープを頼りに急斜面を登るのですが、一歩間違えれば足を滑らせてしまいそうになります。ロープがなければ泥まみれになっていたことでしょう。

写真撮影をする余裕もなかったので次の写真は櫃岩を写したものです。
瀬戸大橋がすぐそばに見えます。

この櫃岩、かなりの大きさ。
源平合戦で敗れた平家の姫がこの中に隠れたとか、隠れていないとか。
人が入れそうな隙間はありませんでしたが、穴があれば確かに入れそうなほどのサイズの岩です。

読んで字の如く歩いて渡れる歩渡島

櫃石島のすぐそばには「歩渡島」という島があります。
文字通り歩いて渡ることができるようだったので、渡ってみました。
特別何かがあるというわけでもなく、草木が生い茂っているため眺めもさほど良くはありません。
しかし、左右から伸びる枝をかき分け、けもの道を進んでいくのはすごくわくわくします。

上陸から約3分、こぢんまりとした祠についたところで道は終わってしまったので、引き返します。
道の両側にはツツジがたくさん咲いていました。

バイクで溢れるほどの花を運ぶ

集落を抜けたところで、花壇の手入れをしているおばあちゃん。
花を摘み、というか根ごと引き抜いていたので私はその様子を見ていました。
すると、おばあちゃんはなんとその花を原付に積みはじめます。

呆気にとられている間に、おばあちゃんはこのバイクに乗って走り去ってしまいました。
きれいな黄色い花が引きずられて散っていくのは綺麗でしたが、なんだか複雑な気持ちになります。
一体あのあと、花はどうなったのでしょうか…。

もとは石ころだった?キイキイ石

櫃石島には、櫃岩と並んで有名な観光スポットがあります。
それが王子神社の境内にある「キイキイ石」。

いつか島の人がお伊勢参りをした際、小さな石を拾って櫃石まで持ち帰ったそうです。
その石を置いておいたところ、「キイキイ」と音を立てながら石は大きくなり、このサイズになったんだとか。
石、というか岩は今も音と共に大きくなり続けているという言い伝えもあるそうですが、島のおじいちゃんは「一回もキイキイ石の音を聞いたことがねぇ」と笑っていました。

花見山から島一番のパノラマを

王子神社の横には花見山へと続く坂道があります。
やはり道があれば進みたくなってしまう性分なので、花見山を目指します。

途中砂利だらけの場所や岩むき出しの道なき道があらわれますが、己を信じて山頂へと突き進みます。
名前も知らないきれいな花のにおいが鼻をくすぐります。
見惚れる余裕はありませんが、背中を押されているような気がして、元気が出ます。

もはや藪のような登山道を抜けると、途端に視界がひらけます。
山頂に到着です。
眼下の穏やかな海に、瀬戸内海の島々が浮かびます。
その間を縫うように進む小舟もまた、この景色の一部になっています。

ちなみにこの画像は当ブログのトップページ画像でもあります。

シンプルでも心惹かれる標識

下山し、集落に戻ってきました。

見てください、このシンプルな標識を。
特に「海 100m」の表示が好きです。

島なのでどの方角に行っても海なのでは?と思ってしまいますが、櫃石島の方々にとっての海はそこにしかないのかもしれません。なんて。

そして帰りのバスに乗る。

歩いて一周することができるようなサイズの島ではあるのですが、予想以上にアップダウンが激しかったこともあり、帰りのバスに乗る頃にはぐったりでした。

ここまで読んでいただきありがとうございました。
他の島の情報もアップしていきますので、今後ともよろしくお願いします。

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